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「後藤さん……オタクとして、絵描きの端くれとして、
俺達が守ろうとしているものってのは、何なんだろうな。
前の戦争から半世紀超。俺もあんたも、生まれてこの方
大っぴらな言論弾圧なんてものは経験せずに生きてきた。
”自由”。俺達が守るべき”自由”。
……だがこの国の、この街の”自由”とは、一体何だ?
映倫やビデ倫とのいたちごっこ。なし崩し的に行われたヘアヌードの”解禁”。
今も成人雑誌や同人誌で行われる”消し”の攻防。
そして不景気に強いと言われたオタクの脊髄反射的消費を当てにした、
ソフトポルノアニメと”湯気”の氾濫。量販店に堂々と並ぶ脱衣フィギュア。
そういった無数の”商品”によって扇動され消費されてきた、
白濁まみれの文化的繁栄。それが俺達の自由の中身だ。
即物的欲求に基づくなりふり構わぬ自由。
”芸術性”や”表現”を盾にして、抜け穴ばかりを探し続ける不純な自由」

「……そんな薄汚い自由でも、それを守るのが俺達の責務さ。
”不純な自由”だろうと、”純真な弾圧”より、よほどマシだ」

「あんたが”純真な弾圧”を嫌うのはよぉく解るよ。
かつてそれを強いた連中にロクな奴はいなかったし、
その生け贄になって酷い目にあった人間のリストで、歴史の図書館は一杯だからな。
……だがあんたは知ってるハズだ。”純真な弾圧”と”不純な自由”の差は、
そう明瞭なものじゃない。幼女殺人犯の誇張された趣味がジャンルを殺し、
”聖地”にトラックで突っ込んだ男の過去がメディアで晒される度に、
俺達は俺達の”自由”を信じることが出来なくなるんだ。
弾圧が自由を生むように、自由もまた弾圧を生む……。
単に言論統制下でないというだけの消極的で空疎な自由は、
いずれ実体としての弾圧によって埋め合わされる……そう思ったことはないか?
その成果だけはしっかりと受け取っておきながら、回線の向こうに現実を押し込め、
ここが現実の単なる後方に過ぎないことを忘れる……いや、忘れた振りをし続ける。
そんな欺瞞を続けていれば、いずれは大きな罰が下されると」

「罰……? 誰が下すんだ。神様か」

「この街では誰もが神様みたいなもんさ。居ながらにしてその目で見、
その手で触れることのできぬあらゆる現実をネタとして消費する。
何もかも他人事な神様だ。神がやらなきゃ人がやる。
……いずれ分かるさ。俺達が都に追い付けなければな」